死月咆哮42
最近は不定期になりつつある、ムクへの食事運び。
元々不定期なのだが、ラニが規則的な感覚で運んでくるため
ムクも何時の間にか習慣付いてしまったらしい。
「最近じゃあ腹が減る度に君の事を思い出すよ。」
「ごめんねえ。いつ意識がなくなっちゃうのか判んなくって・・・」
「意識がない、か。僕も記憶が無い時期があるんだよね。
似たような現象なのかな?」
粗末な飯を素手で食らう。
諸事情により、最近ではこうして目の前で食事を摂るようになったのだ。
父ほどではないが、彼も相当な力を備えている。
何時頃の出来事かは忘れたが、鉄製の廃材を素手で曲げて、丸め込んだ握力は非常に印象的だった。
この不衛生な環境下で病に伏せる事無く、しかも延々死骸を焼き続けているのだから
体力面も精神面も人並み以上の強さなのではないのだろうか?
彼にも何か宿っているのかもしれない。
だとしたらそれは、必ず災いを呼ぶ存在でもないのかもしれない。
今のムクが悪人には到底見えないからだ。
「ごちそうさま。意識があるうちに片付けた方がいいよ。」
何も乗っていない食器をラニに手渡し、早々仕事に戻る。
「ムクさんて仕事熱心なんだね。」
「ん、いや別に。他にやる事ないしさ、何よりベルマさん達の気に触れたくないからね。」
「怖いの?」
「怖いさ。強いもん、口煩いし。」
彼にも怖いものがある。
ベルマ達が強いというのも驚きだが、人間らしい人間ムクに安堵感が沸く。
この世で最も恐ろしい人は、怖いもの知らずの人だと母から昔教えられた。
怖いものを知った上で、怖く感じない人の事を云うらしい。
力が弱くとも、非常識でも、お金がなくとも、友達や家族がいなくとも
それでも他人に流される事なく生き続ける人が最も恐ろしく逞しく淋しい者だと。
「そんな事できる人がいたら、ひょっとして人じゃないかもね。
人は弱いものよ。でもそれで劣等感は持っちゃいけないわ。
克服するもよし、助けてくれる人を探すもよしだからね。私達は、そうね、後者だわ。」
母の笑顔が懐かしい・・・そういえば今はどうしているのだろうか。
眼を傷付けられて以来、一度も会っていない。
傷付けられるのは怖いが母の存在が恋しい。
・・・自分は何を恐れているのだろうか?
「どうした?じっとしていろ。腹に響くぞ。」
メノエに落ち着きがない。
嗚咽をしながらも立ち上がる様が痛々しくて仕方がない。
小さい体で堪え性が無いのは相変わらずだ。
「・・・何か不安でもあるか?伝えたい事があったら何でも言ってくれ。
言い辛いのなら筆談でも何でもいい。俺に教えてくれ。」
震える手でメノエが手にしたのは・・・ペンではなくナイフ。
其れを此方の腿に深々突き刺す。痛みで顔を歪ませはしたが、止めはしなかった。
「・・・・・・あぁそうか、止めたいんだな。誰だ?ラニか?」
徐に首を縦に振ると、次に空いた手で此方の頬に触れてきた。
「俺もか?俺はお前達から離れる気は毛頭ない、安心しろ。ウォッタに何を入れてもな。」